「これぬて、一っっっっっっっっっっ件落着っ!」

「キャー!マルコ様ーー!」

カン。カカカカカカカカカカカカカカカカカン。カカン。
 
 
 
 

「いや、今日もいい芝居でした。心打たれましたよ」

「さすがはマルコ殿。この町の大スターさなぁ」

「あ、そう言えばマルコさん、しばらくお休みではないですか?」

と、聞いたところで、

「おや、そうだったか。じゃ、久方ぶりに羽でも伸ばしてくらぁ」

とマルコは言って外に出て行く。

「マルコさん、お気をつけて」

「おう。おめぇも頑張れ!」

ここは、いや、この時分は銃器は滅多に存在せず、主に刀などを武器としていた時代である。
 
 


古劇・なめくじ記
常日頃なるフィオのヘマ





マルコはこの町一番のスター歌舞伎役者で、
何故かいつも顔は隈取っている。わざわざ化粧したのを消すのはもったいないそうだ。
マルコはただ芝居だけでなく、剣術もこなす。
流派は詳しく分かりはしないが、二刀流とのことである。
その剣術を芝居に活かしてる訳だから、迫力も人一倍だってぇ話だ。
基本的にボランティアの精神で、稼いでるくせにいつも手持ちはすっからかん。それが人気の元だってぇ噂もある。

さっきまで自分が主演していた劇場を後にしたマルコ。

「さて。久しぶりにあいつんとこまで酒飲みにでも行くかな」

「よう!お疲れ」

「ターマ、おめぇまた俺の公演見てやがったのか」

ターマはマルコの無二の親友で、
ターマはその日暮らしの生活を気ままに送る浪士で、
流派はどこにも属さず、いわば自己流。
ターマはマルコと違って金は無いのでいつもマルコにたかってる。
マルコの手持ちがいつもすっからかんなのも、大体はターマが関係してるだとかしてないだとか。
またターマはマルコと違っておちょくり屋。
 

「いや面白かったぜ。特に最後の”これぬて一件落着”ってとこは独特感を出してたねぇ。新しい試みかい?」

「あれはかんだんだ。おめぇ知ってて言ってるだろ」

「へへへ。おや、あいつがいるぜ」

「ああ、あいつか」
 
 
 
 

「さあさあどうした。もう私の相手するやつはいねぇってぇのかい」

「まーたケンカかよ」

「あっお前っターマ!何しに来やがった」

「たいそうなご挨拶だな。ただの通り掛かりだ」

「そうだ丁度良い。お前私のケンカ相手になれ」

「俺は女に手を上げるような奴にはなりたくねーなー」

「なら女を助けると思ってやれ。私はケンカで食ってるからな。こうでもして客寄せしないと食い扶持がねぇ」

「んなこと言ってる割にいっつも まどかんとこでただ飯食ってる奴は、誰だ?」

「・・・」

「おいちょっと」と、2人のやり取りを端で見てたマルコが挟んだ。

「俺ぁ疲れてるからよ。さっさと行かしてもらうぜ」

「あら、マルコもいたのか。行くってどこに行くんだ?」

「まどかの所へ酒飲みにだ。久しぶりの休みにゃあやっぱこれだろ」

「まどかんとこか。私も腹減ってきたし、ついてくよ」

「ほら、今日もただ飯食いに行くんだぜ」ターマが挟んだ。

「・・・うっさいな・・・」

と、マルコターマについてくるこの女。
ご覧の通り、街道でケンカして食っている。ケンカと言ってもかつあげとかじゃなく、賭け勝負みたいなものだ。
めっぽう強く、武器無しで考えればマルコやターマに勝つんじゃねぇかと噂もされているほどで、そのため客足が遠のきがちで悩みのたね。
出来るだけ客を寄せ付けようと、最近胸を半分くらいはだけた着こなし、要するに色仕掛けを使い始めたのだが、そうした途端マルコが「ちゃんと着ろ」と口うるさくなってしまった。だがそれ以来、彼女的にはこっちの方が動きやすくて好きらしい。
何故かマルコとターマからは名指しで呼ばれる事が滅多にないのだが、一応ちゃんと「エリ」という名前はあり、一般の町の人からは「エリ姉」や「あねさん」ってぇ名で親しまれてる。
ちなみに男物の着物を着ているのはご愛嬌。
 
 
 
 

「よう、まどか。邪魔するぜ」

「あら、マルコさんじゃない。久しぶりー」

「私、私もいるぜ」

「うわあ、エリさんまた来たの」

「あからさまに嫌がられてるな」

「珍しい。ターマさんも一緒ね。いらっしゃい」

ここは、相川まどか経営する居酒屋で、
マルコ達の溜まり場でもある。
大スターが常連であるということで、大繁盛しており、普段ゆったりできないが、
まどかが予感的にマルコ達が来るのを感じ、
その時は、最悪でもカウンタの席は取っておくようにしてる。
今まで、その「来る予感」がはずれた事が一回たりともないって事だからすげぇ話だ。
だが、今日は珍しく店内、静かな様子で。
 

「もおー許せません!」


店のすぐ外で聞こえたかと思うと、人が飛び込んできた。

「聞ーて下さいまどかさん!私はもうダメですよ。ダメダメですよ!」

「フィオだ」

「あれっ皆さん。お久しぶりですねー」

「俺ぁ久しぶりだが」マルコが言った。

「毎日会ってんだろう」ターマが言った。

「今朝、会ったばかりだよな」エリが言った。

「んーん。私マルコさんの今日の公演見に行きましたから久しぶりじゃないですよ」フィオが言った。

「じゃあおめぇ何で久しぶりなんて言ったんだ」

「言葉のアヤですねー」
 

フィオはその辺にいるような町娘で、
ちょっといいとこ住まいのちょっとお嬢様。だが本人は自覚していない。
天然入っていて、たまに話のとりとめがつかない。
やる事もなくていっつも町中歩いていて、たまに走っていて、街道でケンカ業してるエリとは、本気で何回も会う。
あきれてエリが尋ねた時、その日は町を50周したってぇ話だ。
本人は「訓練です」と主張しているが一体何の事なんやら。
ここだけの話、フィオは裏家業があるってぇ話だが。
 

「そう言えばマルコさん、今日の公演の最後の”これぬて一件落着”っての、新しい試みですか?」

「おめぇは本気で言ってるな」

ニヤニヤして覗きこむターマの顔を、マルコはグイと押しのけながら言った。

「・・・あのさ、で、フィオさん、何が許せないの?」

まどかが話を戻した。

「そうだった!聞いてください!今さっき!大の大人が!子供を!何もしてないから!怒って!私許せなくてたまらない!」

「ちょっと落ち着いて。要するに、単語を抜き出して見るところ、大人が子供を怒ってたってとこかな」

「だからそう言ってるじゃないですか!子供が!何もしてないのに!」

「あ、ちょっと言葉っぽくなったね。子供が何もしてないのに大人が怒ったのね」

「そうです!で!大人が奪って!」

「子供を!?」

「おもちゃです!」

「ああ、なんだ。びっくりした」

「で!私はもうダメなので今夜それを取り返します!」

「まぁ、良い事だと思うけど、大丈夫?はいお茶」

「ありがとうございます!大丈夫です!私はぁーーー忍者ですよ!」

と言って、フィオは着てる着物を脱ぎ捨て、一瞬で地味な色の着物をまとい、忍者姿になった。

「まぁ、子供も喜ぶだろうし、俺ぁ応援するぜ」マルコはボランティア精神なので、こういうのは好きだった。

「相手にもよるけど、ま、普通の奴ならフィオでも大丈夫じゃないの」エリはめんどくさそうに言った。

「いえ、お侍さんですよ」お茶を飲んで落ち着いたフィオが言った。

へぇ

は?

なぬぅーーーーーー

「そりゃダメだ。フィオおめぇ殺されるぞ」マルコは注意した。

「相手がどれだけ侍のはしくれであっても、あんたの質じゃあやり切れねぇ」エリも注意した。

ターマはとりあえず見てた。まどかは多分もう少しでエリが飯を催促するだろうからその用意をしてた。

「私だって、やるときゃやりますよ」

「命あってのものだねだ。子供のおもちゃなら俺が新しくこさえるから」

「ヤです。あのお侍さんにはこらしめてやらないと」

「それが無理だってんだろう」

「それにこらしめるのは何も子供がおもちゃを取られたからだけじゃないんですよ」

「分かった聞いてやるから。それでもうこの話は終わりにしようぜ」

「そのお侍さんは、あのモーデンの門下生なんです」

「何だと。あのモーデン門下生。フィオ、やっておしまい!」

マルコ達はフィオをさりげなく支援する事を決断した。

モーデンはそれはもう剣豪も剣豪で、
しかしその手口はいつも非情で卑怯。
道場を開いているのだが、道場に入るのはならず者ばかり。
いっつも町の人に悪徳なちょっかいを出しては困らせてるってぇ話だ。
マルコ達も幾度となくこらしめようとは考えていたが、いかんせん門下生に手を出すと後が怖い。
命の危険もあるがそれ以上にうざい。夜寝るときとかその周りで大声出しまくって近所の人も寝かせてもらえなくなったり。
例えこらしめたとしても後から後からきりがなく、結局手を出せずにいた。

「そうかぁ。あのモーデン門下野郎。こらしめる時がついに来た訳か」エリが嬉しそうに気合をこめる。

「しかも深夜決行だから誰がやったか分からずじまいだな」ターマもノってきた。

「ざまーみろだぜ。よっしゃ、そうと決まれば話は早い。今はとにかく腹ごしらえだ。まどか、飯ー!」

「はい、今日のお客さんが残したのを適当に盛り付けたやつ」

「ま、食えりゃいーや」

(フィオの場合、忍者じゃなくてくノ一じゃねぇかな)ターマはちょっと思った。


フィオは腕は決して悪くない、いやむしろ超一流だ。腕だけで言えば。
ただその性格上、普通は考えられないヘマをいとも簡単にこしらえてくる。
マルコ達はそのヘマを恐れたってぇ訳だ。
今夜も一波乱ありそうな気が、あ、する。

「この家か」

フィオを先に行かせて、マルコ達は待機することにした。

「じゃ、行きますね」

フィオは門下生の天井に忍び込もうとしたが、歩いてる途中いきなり

「きゃあ!」バターン

フィオのヘマメモ
何もない所ですぐに転ぶ

「何だ今の声と音は!」

門下生が起きて出てきてしまった。

「ちっっっっっげーーーーつってんだろスケコマシ野郎!」

「っっっっせーーーーんだタダ飯食らい!」

いきなりエリとターマがケンカしだした。

「ケンカか?どこの誰だか分からんが夜中に騒いでんじゃねぇ!くそったれ!」

門下生はそう言ってまた部屋に入っていった。

「フー危なかったな」

「おめぇらは、よくもまぁ、即興でそこまで出来るもんだ」

と、マルコが感心してるところでフィオはとりあえず無事に天井裏に忍び込めたようだ。

「よし、俺らも少しぱかし踏み込もう」
 
 
 

門下生はまた寝ついたようだが、今さっきまで起きてた訳だから、油断はならない。

さすがのフィオも、そればっかりには気づいたようで。

「こんなときは睡眠薬。基本ですよ」

そう言ってフィオは天井裏から糸のようなものを垂らし、それに液を伝わせるように門下生の口に睡眠薬を垂らそうとした。

ピト

フィオのヘマメモ
薬味を睡眠薬じゃなくて、激辛薬味に間違えるのは基本


 


「あ、しまった」

フィオのヘマメモ
それを口じゃなくて、目に垂らしてしまうのはご愛嬌


 


「ぎゃああーー目が、目がああーー!」

また起きた門下生。

「アホかあいつぁ!門下生を起こしてばっかりだ」

「・・・それがフィオだ。いや、それよりも、今あいつは目が見えねぇ!」

それはチャンスだ。

「もうこりゃ誤魔化しようがねぇな。こうなりゃやけだ。強行突破!」

うおおおおおおおお

ドカーンゴシャーーンバリバリバリ

バキドカボコボコバコドーン
 
 
 
 

「姿は見られてねぇよな」

思う存分暴れまくって、一目散に逃げ出した4人はとりあえず勝利を賑わった。

「どうですか私の忍者テクは!もう楽勝でしょ」

「おめぇは本気で言ってるな」

「えー。上手くいったでしょ?マルコさん」

「・・・。もういいや」

「何ですかその返事。思う存分こらしめまくって、すっきりしたでしょ!」

「そういやおめぇ、子供のおもちゃは?」

「え?」

フィオのヘマメモ
当初の目的はすぐに忘れてなんぼ


 


「結局、俺が新しくこさえることになるんだな」

「あははー。やっちゃいましたねー」

「おいちょっと。そのおもちゃってこれの事だろ?」

と、エリが差し出した。

「あ、そうですこれですよ。エリさんしっかりしてますねー」

「あんたがもうちょっとしっかりしろよ」

「とりあえず、まどかんとこに戻るか。アリバイ作りでもしといた方がいいだろ」マルコが提案した。

「賛成だ。戻ったら祝杯だぜ」エリが喜んだ。

「またタダ飯かよ」ターマが

パカ―――――――――――――――――ン

あ痛――――――――――――――――――――――!
 


「ありがとう、お姉ちゃん」

「今度は怖そうなおじちゃんを見たら近付かないようにするんですよ」

無事におもちゃを渡す事ができた。

「良かったですねぇ。マルコさんはこれからどうするんですか?」

「俺ぁまだしばらく休みだから、その辺ぶらぶらするさ」

「私もお付き合いします」

「おめぇはいっつもやる事ねぇもんな」
 
 
 

「おい貴様。昨夜モーデン門下生の家の側で怪しい奴を見なかったか?」門下生が尋ねた。

「あ?知らねーよ何だ急に。仕事の邪魔だ」エリが答えた。

「俺の仲間がやられたんだよ。貴様本当に知らないんだろうな。嘘ついたらただじゃあおかねぇぞ」

「知らねーもんは知らねぇ。お前、仕事の邪魔だっつってんのが聞こえねーか」

「フン、くそったれが。ケンカのどこが仕事だよ」と言ってどこかに去って行った。

「知らぬが仏って言うしな。そのまま見つかりもしない犯人探してろ。へへっ」
 
 
 

「しばらく、騒がしいだろうなぁ」ターマが言った。

「仲間がやられたもの。相当怒ってるでしょうね」まどかが言った。

「やったっつっても気絶させただけなんだけどな」

「侮辱されたと思ってるんでしょう」

「酒、切れちまった。おかわり」

「あんまり深刻に考えてないわね」

「ったく、うぜーぜ。門下野郎」エリが居酒屋に入ってきた。

「あぁ・・・いらっしゃい」

「門下野郎。何回も何回も聞きこみに来やがって、全然仕事にならねぇよ!」

「へー大変ねー」

「ってことで、まどかちゃーん」

「来たか・・・はいはい。ちょっと待ってて」

「おめぇ、血も涙もねぇな」ターマが挟んだ。

「やっぱり、ここに来ちまうんだよな」マルコとフィオもやってきた。

「あらいらっしゃい。また4人揃ったわね」

「なんか、また何かしら起こりゃしねぇだろうな」

「号外号外ーー!大ニュースだよーーー!」

と店に入ってきた人物を見て、まどかが驚いた。

「留美じゃない!どうしたの一体」

「号外さぁ姉さん。あのモーデン道場についてのニュースだよ。ここに一番に知らせるべきだと思ってね」

「モーデンのニュースだって!?」マルコが乗り出した。

「そうですよ。偶然にも4人さんもいることだし、さぁさぁ手にとってください」

「留美、ゆっくりできるの?」

「残念ながらこの号外を届けに来ただけさ。あっしはまだ飛脚の仕事が残ってるんで、これで失礼するよ。またねっ」

留美はそう言ってすぐ去って行った。

「台風のような奴だな。それで号外の内容は・・・」

号外には、
昨夜、モーデン門下生の家が原因不明の破壊にあった事に不信がった御用役人が、
もしやモーデンのことだから門下生に危ない武器、爆弾等を作らせているのではと、
それが誤爆してこの状況ができたのではないかと疑い、
モーデンの事をこれから調べ上げる所存で行く、
というような事が書いてあった。

「おーーー」

「まさかこんな形に発展しようとは」

「棚からぼた餅だ」

「ひょうたんから駒ってとこか」

「やぶへび」

「それは違う」

「終わり良ければ全て良しってやつか。よっしゃ、マルコ、最後にしめてやれ!」ターマがふった。

「よっしゃ、行くぞぉ!」

「これぬて、一っっっっっっっっ件落着っ!」

またかんだよ。

<おわり>



<あとがき>タスラグより
 

昔々、サムラーイアパレーな時代にメタスラ世界があるとすれば、というような感じで作りました。

しかしこれを作るに当たって非常に心配な事があります。 メタスラ達をほぼオリジナルキャラ同然に作ってしまっているので、 掲載条件を満たすのかどうか。一応、ゲームの設定に出来るだけ沿ってはみましたが、 オリジナルじゃんと言われるのも否めない。
酷いようでしたら目をつぶって流して下さいとしか言い様がないです。頑張ってください。

さて今回かなり異質なメタスラ世界をご覧になられた訳ですが、いかがなもんなのでしょうか。 気に入ってもらえたら嬉しくございます。

反響が良いようであれば、続き物というか、 この世界感を引きずったものをまた書いてみたいと思って、おります。
反響なんて出るのかよ。0.1%の確率ですな。いや、それでもまだ高い数値だ。

ありがとうございました。

2002年9月3日
(2003年9月16日、あとがき修正)
 

戻る