殺せ

「よーっしゃよしゃー」

「ターマー!待てこのヤロ」

「おせーぜマルコー。そんな戦車捨てっちまえ」

「あぁあ!?お前我が軍の万能戦車に何てことを!」

「へいへー失言でした。悔しかったら追ってこーい」

「ターマー!」

占拠された都市を開放しろ。
今回の任務がそうであった。
すぐにでもモーデンを討伐したい所だが、
有利を作り出すのもまた兵法。
まわりからじっくり固めるのも大切だ。
それに、
ここを抑えればやっとこモーデン討伐に踏み込む事もできる。
もう一辛抱だ。
そうしてマルコ達はゲルハルト市を攻略している。

「いやーははは、おばちゃんにはどビックリさせられたぜなあマルコ」

「こんなに円滑に事が進んだのもおばちゃんのおかげだぞ。ちゃんと礼言うんだぞ」

「分ーってるよ。って、お前もだろ!」

「ノリ突っ込みになりきれてねー!」

スパイとして潜り込んでいたおばちゃん、もとい特殊工作員に先行してもらい順調に進んできた。
しかし、モーデン軍もただ黙って見ていた訳ではない。
今まで以上に激しい攻撃、
共同作戦戦車シュー&カーンの再来襲、
しかし、正規軍にことごとく突破されていくことになる。

「アホかよ。同じ敵が来てもバカやってんだけだぜ」

「そんな奴に時間かけた奴はどこのどいつだよ。おばちゃん行っちまったぜ」

「は!俺だって言いたいのか?おまっメタスラに乗ってんだから援護ぐらいしてもいいだろー」

「俺は、バリケード壊してたんだよ」

「そうかそうか。よし行こうか」

「うわ。ターマ切り替え早いなー」

「バイクだーーーーーーーー」

「ぅうぉい!」

進んでいくと特攻バイクが攻めてきたものの、
バイクだーーと突っ込むターマに
うわあとモーデン兵ものけぞり返ってしまう。
そしてすぐさまそれに乗りこむターマ。

「マルコ!俺はこれで行く!」

「捨てちまえ!」

「ああーー!?お前我が軍の」

「敵のだろ!て、き!のだろ!」

「2回言うなよ、2回は、言うんじゃないよ」

「いや、お前もな」


「うおおおおあああははははは。マルコお似合いだぜー」

「ふざっけんなぁ!この!この!」

少し進むと奇怪な攻撃に巡り合った。
兵士達がメタルスラッグに貼り付いてきたのだ。
バルカン砲は何とか踏ん張れるが、キャノンが撃てない、なかなか振り落とせない。
その光景は、程よくコッケイに見えたと言う。

「ターマー!」

「もう分かったよ。ほれ、ほれ」

ドカ。ドカ。
無我夢中で貼りついている兵士達を片っ端から蹴落としていくターマ。
一蹴りで気絶者一人。
次から次へとなぎ倒していった。

「うむ順調。当社比5倍だぜ」

「当社比ってなんだよ」

「我がターマ社によりますとだな」

「しかし、相手もヤケクソな事をしだした辺り、山ももうすぐといったところか」

「おい聞けよ。お前が質問したんだろ」

「ターマ」

「へいへい。そろそろ気の引き締めようかね」

「は?お前今まで気抜いてたのかよ」

「え、そんなバカな」


やがて進んでいると、
インカムからターマの声が聞こえた。

「マルコ、なんか変だ」

「どうした」

「野良犬やら野良猫やら、とにかく凄ぇ動物の数だ。まるで何かから逃げてるようだ」

「他に変わったことは?」

「他か?ん・・・お、うぉお」

「どうした!」

「ミサイルの、嵐だ」

上を見上げると、空一面をミサイルが覆い尽くし、街の方へ飛んで行くのを見かける。
数がすさまじく、光が見えない。ミサイルの影で、辺りは真っ暗になる。
それほどのミサイルが街に向かっている。

「街を破壊する気か!」

「いやでもマルコよ。住民はみんな避難しつくしたぜ」

「ただ破壊するだけならもっと早くできるよな。何が目的なんだろうか」

「考えるだけ無駄だと思うぜ俺は。とにかく元凶を断ちましょうや」

「よし、急ごう」

やがて、
大きな戦闘車両がまみえた。

「あいつがそうじゃねーか?」

そうターマが言った瞬間、戦闘車両はこちらを向き、
弾をぶっ放して来た。

「うおっとっとっとぉ。甘いね。そんなんじゃ当たらないよ」

それでも諦めずに何度も弾を撃ってくる。

「当たんねぇ当たんねー。やる気あんのかよ」

「ターマ、やばいぞ」

「え?なに?」

ドン

「ぅお。あ、れ?」

マルコ達は少しずつだが後ろへ後ろへと避けて行っていた。
すると案の定、壁にぶつかり、もう下がれない。
と言う事は、
弾を避ける事ができない。

「うわわわ。やべぇやべぇぞ!」

「ターマ!とりあえずメタスラを盾に!」

「いいのかよ。我が軍誇る万能戦車だろ」

「命には替えられんだろ!早く!」

「したとしても長くはもたんぞ」

「そうしたらその時だ。来るぞぉ!」

・・・
しかし、
弾は来なかった。

「弾切れ、か?」

「まさかこんなに早くか?有り得ないだろ。ありがたい話ではあるが」

「とっとにかく!反撃だ」

マルコ達はすかさず戦闘車両に近寄り、総攻撃を開始した、
途端、
来た、
またあの弾だ。

「うわ!やっぱ弾切れじゃなかったよー」

「とにかく!追いこまれないようにはするんだ。一旦離れるぞ」

ドカカカカ

「・・・」

「マルコぉ」

「お、おぅ」

「離れらんねぇ」

なんと、
事もあろうか今度は戦闘車両を囲むように弾をぶっ放してきた。
とにかく安全圏まで離れなければ、
そう考えたマルコ達の作戦はくしくも崩れ去る。

「くっぉおおお!ターマ、やれ!とにかくやられる前にやるんだ」

「お、おおお!壊れろ、壊れろ壊れろー!」

手応えはある、
だが、
同時に戦闘車両の装甲の強さも感じる。
これは、
ダメだ。

「く、来る!」

「うわああああああああああ」

・・・
しかし、
弾は来なかった。

「こ、今度こそ、弾切れか」

「た、助かった。生身だから尚更」

と、思ったのも束の間、
今度は戦闘車両がせり上がってきた。

「うわ!ターマ、離れろ離れろ」

「え?なんだい?」

「お前ぇ!なに密かに安全圏まで離れてやがんだ」

「生身だから素早い。これ常識ね。だからお前そんな戦車捨てっちまえ」

「アホか」

せり上がった戦闘車両の底から、
放射器らしきものが出てきた。

「近付くとやばいな」

ドカカカカカ

「な、に!」

油断してたばかりに対応しきれなかった。
弾切れだと思っていたばかりに油断してしまった。
弾はまだあった。
最悪だ。
マルコ達は再びその弾幕に閉じ込められた形になってしまった。
やばい、本気でやばい。
しかも今度はどう見ても近付くとやばそうな放射器付きだ。
しかし、近付かないことにはこの恐怖の弾幕を避ける術がない。

「だ、ダメだ。マルコ。俺はもうダメだ!」

「ターマ!よせ!近付くんじゃない!」

ボオオオオオオ
火炎放射器だ。
戦闘車両の底から出てきた放射器から炎が放たれた。

「ターマァー!」

「はぁ、はぁ、俺は大丈夫だ。危機一髪」

「無事か!」

「ああ、でも、しかし、あの放射器が一瞬でも遅れてたら俺はもう、こう、天使のわっか?あれが この頭にだな。でも、俺はオシャレだからこう、横にかぶって、な?」

「俺、突っ込まねぇよ」

ふとした疑問を持った。
一瞬でも遅かったら?それって逆にとったら、紙一重で助かるってことでは?
もっと引きつけてから火炎放射しようとしたらできたはずだ。
それに、
さっきから俺達を苦しめているこの弾だが、
いつもあと1歩というところで止まってくれる。
何故だ。

恐怖感を植えつけている?

否、そんなもの、戦争には必要ない。
それに、何だか違和感を感じる。
そう、
恐怖感を植えつけているというよりは、
まるで、



俺達を殺す気などさらさら無いような


「マルコ!やったぜ。火炎放射器をぶっ壊した。案外柔いぜコノヤロー!」

「誰か出てきたぞ?」

「捕虜じゃねーか!助けに」

「待て!罠かもしれん」

そもそもせり上がって、”動けなくなった”事からおかしい。
動けなくては、格好の餌食ではないか。

「きっと、俺達が捕虜を助けに行った瞬間に押しつぶすに決まっている」

「お、おお、そうか。危ねぇ危ねぇ。いや、しかし!」

「どうした」

「お前それじゃ捕虜が潰されるじゃねーか」

「そ、それは」

「見殺しなんてごめんだぜ。俺は助けるぜ。意義ある人ーー?」

「は、はい!ほら、手上げたぞ。ターマ」

「見えませーん。メタスラの中で手上げてるからー」

とした時、
インカムからマルコを呼ぶ声が聞こえた。

「マルコ、聞こえるか」

「どうした、ター・・・」

おい、おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい

嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ。


何で師匠の声が聞こえるんだよ。


「よし、聞こえるな。単刀直入に言う。俺が乗ってるこの万能射程戦闘車、 アイアン・ノカーナはもう破壊寸前だ」

「おい、あんた誰だよ。何師匠の声マネしてんだ」

「いいか、一度しか言わんぞ。俺を殺せ」

「あ、当たり前だろうがよ。破壊するに決まってる。敵だもんな」

「よし、それでいいぞ。成長したな」

「な、なに師匠のマネしてやがんだよ。な、なみゃいきだぞ」

「ははは、何かんでるんだ。そうそう、ターマは安心しろ。この下は安全地帯だ」

「う、ううううるりゅへーぞ。おおおおおお前」

「最期まで面白い奴だな。娘を頼んだぞ」


「マルコ!捕虜は助けたぜ。押しつぶされる感も全く無い。こりゃ大丈夫そうだ」

「黙れ!てめぇそれ以上喋んじゃねえ!」

「な、なんだマルコ。ご乱心か?」

「え・・・ターマか」

「Who are you?」

「あ?」

「フーアーユーね。これね、単語ずつ”逆に”読むとね」

「何言ってんだ?ターマ?」

「ユーアーフール!あ、”ル”が余計だったよー」

「ケンカ売ってやがる!」

ドカカカカカカ

「うぉおぉおぉおおおい!マルコ!おまっ仲間にバルカン向けてんじゃねーよ」

「ケンカなら買ってやるぜ!お前、すぐそこどけ!」

ドカカカカカカ

「うわわわわわ。分かった分かった。捕虜の皆さん、逃げやしょう」


安全地帯か。確かにさっきまでとは比較にならないぐらい安全だ。

たまに来るミサイルも目つぶってても壊せるぐらい読みやすい軌道で飛んでくる。

潰されるような感じも全くない。

きっと師匠がそうしてんだろう。

そうさ。

師匠かどうかなんて最初の一声ですぐ分かるさ。

でもな、

そんなの、はいそうですかって簡単に信じ込めるかよ。

殺せって言われた。

否、言われなくても、裏切り者は始末するように誰彼からも言われるだろう。

裏切りだなんて、

そもそも裏切りってどういう事だろうな。

少なくとも、

殺せと言った師匠のあの声に背く事は

立派な裏切りになる。

しょうがない。しょうがないんだよ。

何かあったんだ。あの声を聞けば分かる。


ドカーン、ドカーン
ありったけのキャノン砲をぶち当て、
一定範囲まで下がって行くメタルスラッグ。

「師匠、これが最新の我が軍万能戦車の威力だ」

キンキンキン

チュドーン


あとで分かったことなのだが、
師匠は自分の娘を人質にとられ、
無念にもアイアン・ノカーナの操縦を強制させられていたらしい。
最後、「娘を頼んだ」と言ったのは。

「マルコぉ!何で我が軍の万能戦車捨てっちまうような事したんだよ」

「お前、捨てろ捨てろ言ってんだろ」

「冗ーーーー談だっつの、分かってんだろ」

「うるせぇよ、うるせぇ」

「マールコさん。後ろにいるのだーれだ」

「うるせぇよ。ふざけんなよ」

「おーい、何たそがれてんだよー」

「お前に、分かってたまるかよ。何も知らねぇくせに」

「へーいへい」

ターマは、メタルスラッグに乗ったマルコと通信するために、
インカムを装着していた。
ターマと同型のインカムを装着してたマルコがアイアン・ノカーナ操縦士と通信できていたという事は。

「マルコーほらほら、これなんだ」

「うるせぇって言ってんだろ!のぅわあ」

「にやり、ニヤにや、ニヤリンコ」

「ターマァーー!人をおちょくんのも、大概にしゃーーーがれーーー!」

「きゃーご乱心だー」

「とにかくどうでもいいからお前を1回思いっきり殴らせろー!」

「お前、今まで何回俺をぶった事あるのかよく考えてからそのセリフ吐きやがれ」

「よし、考えよう・・・ターマァー!1回思いっきり殴らせろー!」

「変わってねーよ!」

<おわり>


<あとがき>タスラグより

自分の他作品”メタヨンスラコマ”と同時期に送った作品。

これは、結構信頼できる筋から聞いた事のある、メタルスラッグ1、5面での裏設定です。

と言っても、開発者の方から直に確認取った訳じゃないので、あくまで”噂”という事になります。 そんな噂段階のものをこうやって形に残してしまうのはちょっと怖かった。
正直、この話を誰か他の方が書いてくれないかと密かに待ってたんですけど、 結局自分で書いてしまいました。書いてしまいましたよ。 自分の中で忘れ去ってしまう前に書いてしまったんです。
それとも、自分が見落としていただけなのか。こういう話の作品。

2003年3月23日
(2003年9月16日、あとがき若干修正)




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