バイバイ

全く、

ついてないってのはこういう事を言うんだろな。

一体、なんな訳よ、これは。


えーっと、確かー。
道を横断しようとした時よ。
信じられる?
私はちゃんと横断歩道を通ったよ。
そりゃーまー、シグナルはさー。
でも、注意だったんだから通ってもいいじゃない!
ところでみんなは信号が黄色だったらどうしてる?
普通、通るよなぁ!

まあいい。

とにかく横断しようとした時、来やがった。
トラック。それも超でっけーの。
あぁ、これは死んだな。
だって私それに当たったもの、感触もあったわ、当たった音もしたもんね。

私見ちゃったわ。結構冷静だったのか?
なんとそのトラックの運転手、寝てやんの!
ちくしょー、訴えてやるー!

まあしかし、問題はそこじゃなくて、
その瞬間、光に包まれてるのが分かったのね。
なななななななんだこりゃーって思ってたら、
傷は全然治ってて、まあいっか良かった良かった、って思ってたら、

どこよここわぁー!


どこか島の浜辺らしい。
無人島かどうかは分からない。でも人の気配は全くないな。
さっきまで普通の街の普通の道を歩いてたのに、とんだ災難だ。

なるほど。これぞ俗に言う、
・・・・・・・・・・・・
えーと、何だろ?私は国語力無いから。
そうですよ、バカですよ。

カサカサと”何か”が聞こえるのはさっきから感じてた。
人の気配は無いって言ったよね。
だもんで、
振り返りたく無いんだよぉー。

まぁでも、振り返ったわ。より災難に落ち込むのは私だってゴメンだ。
振り、返るとぉー。
ぎゃあああああああ!
蟹だーカニだー、でっけーーーー!

そうかこれは夢なんだ!
このカニはさっきのトラックなんだ!
きっと混乱して幻覚を見てるっていうアレだ。
なるほどなー。という事は。
この後、私が轢かれる。

ダメじゃねーか!

ザシュッ

つっ・・・!
痛い。カニにやられた所から血が出てるし、痛い。
今、他の事象なんてどうでもいい。とにかく今痛い!

2劇目、はさみを振り上げるカニ。
えーと、これが夢じゃないって事は、
これが当たると
私は死ぬ。

ダメじゃねーか!

あああああぁぁぁ、ダメだーー。

バゴォッ!

結論から言うと、
私は生きてた。
早い話、どこからともなく現れた女の人に助けられた。
さっき私は人の気配は無いって言ったけど、
まあ一般人の私の言う事をどれだけ信用できるかって事だわ。

女の人にはいろいろ聞きたい事はあったけど、
まずは助けてくれた礼を言わなければ、
人間たるもの、礼儀を重んじなければならないのはいくら私でも心得てる。

それから、軽ーく自己紹介をした。
と言っても名前を言っただけだ。
私の親父は結構有名らしく、親父の娘だと語ればちょっとは反応あるかもしれないけど、
人の名を使って自分の名を売ろうなんて姿勢は好きではない。
だから自分の名前だけ言った。
そしたら、女の人も返してくれた。
エリさんと言うらしい。
ここへは不思議な事件の捜査に来たらしい。
そりゃあね、
あんなSP(スペシャル)カニ見せられたんだから、
それだけでもう確かな満足だ。

どうやら女の人だけじゃないみたいで、
何やってんだ、と言いながらもう1人、今度は男の人が歩いて来た。
自己紹介しようとしたけど、エリさんが代わりにやってくれた。

男の人はマルコさんと言うらしい。
ここへ来たのもエリさんとほぼ同じ動機らしい。

はあ、
じゃ、”ここはどこ?”なんて質問、場違いだよなぁ。
私はどこに行けばいいんだろ?

途方に暮れてると、
もう行かなきゃならないから、バイバイ、とエリさんが進み出した。
マルコさんもそれじゃ、と言って続いて行った。
えぇー、私はどうすればいいのー。
こんなか弱い女子を目の当たりにしてさぁ!
なんて事、見るからに軍人という彼には何とも思わないのかな。
いやいや、むしろ、
禁欲生活ばかり送っていた(であろう)から、もしかしたらぁ。

ムフフフフフフフフフフー

なんてやってるうちに、
2人ともいなくなったのは言うまでもないよね。

とした時!
また光に包まれるのが分かる。
ええーー。
またかよおぉー。


今日は厄日らしい、
気づいたら銃撃戦、戦いの真っ最中
銃やら何やら、危険な音がパンパン聞こえる。
さっきも死にそうだったけど、
今回も、より死にそうな香りプンプンだよ。
はぁもう最悪だ。

でもそんな中にも一筋の光明があった。
今度はすぐ側にかなりの武装をした男の人がいた。
私もびっくりしたけど、相手もいきなり出現した私に驚きを隠せない様子だ。
まぁでも、
今回はこの屈強な人に守ってもらえば安全だわ。

そう思って、自己紹介をしようとしたが、
正気を取り戻したその男の人に抑えこまれた。
危ないぞ危ないぞって、およそ1分で耳にタコが出来てしまいそうなくらい言われるんだけど、
このパンパン聞こえる音聞いてたらいくら私だって分かりますわよ。
バカにしてんのか!
まあ、バカであってるけどさー。いやそういうことじゃなくて。

お察しの通りだとは思うが、やはり戦争の真っ最中らしい。
で、そんな格好じゃ既に死んでるようなもんだぞって、
防弾チョッキをくれた。
ああそうかい。
自分の身は自分で守れってかい。

ねぇ守ってよー。なんて、
このピリピリした空気を和らげてみようかとも色仕掛けをしてみたが、
全く何の効果も無い事は何より私がよく分かってる。
皆まで言うな、泣けてくる。

ぶっちゃけ、こんな事したらすごい怒られるような予感もしたけど、
結構周りの人達みんな笑ってくれた。
戦争の兵士なんて言うから怖い感じだったけど、
やっぱり人間なんだって思う。気さくでいい人達だ。

急に、みんなの表情が真剣になる。というよりは少しこわばってる。
きっとすごい敵の登場だろう。でもこっちはこんな多人数なんだし、
よもや死ぬなんて事、無いよねぇ?

敵さんの登場に、
私は言葉を失ってしまった。
なんとその敵というのは、
あのマルコさんじゃないか。

隣には場違いな巨乳の眼鏡お姉ちゃん。
うわぁお色気作戦?あいたたたぁー、
とか一瞬(ホントに一瞬)思ったけど、
そんなことより、あのマルコさん達が今は敵だって事だ。

なんでなんで?何これパラレルワールド?
は、そうか、これはパラレルワールドなんだ。
なるほどなぁーって感心してる場合じゃない!
とにかく今は身を守らなければならない。

姿を出したがすぐさま、身を潜めるマルコさん達。
当然そんな彼らに銃を撃っても当たるはずはないけど、
やらなきゃあこっちがやられるってんで、
私の周りの兵士さん達は必至に撃っている。

後ろから何か感じた。
それもとびっきりの嫌ーな空気。
振り返りたくなかったけど、そうも行かない。
思わずそっちを見た。

まあ、俗に言う、
開いた口が塞がらない
って奴だ。

後ろにいたのは、
私を助けてくれた、あの、
エリさんだった。

なるほど、マルコさん達は囮で、
そっちに注意が集中してるうちに
エリさんが裏から攻め落とす作戦か。
こ、これが、プロの技なのか。
なんて感心してしまったのは、冷静だからだろうか。
なんてそんな事を思ってる場合じゃなかったのは言うまでもない。

あまりの不意打ちに、兵士さん達は応戦する間もなく、
どんどん倒されていく。

大勢の人が体のあちこちから血を出して倒れて行く光景は、
はっきり言って、
とんでもない。
できる事なら、
こんな光景ぜってー生み出すなと、
私はみんなに強く言うね。
分かった?分かったの!?分かったら返事なさい!

信じられなかった。
ある程度兵士さん達を一掃したエリさんは
私にまで銃を向けたんだから。

私!私!ほらさっき助けてくれたじゃなーい。
なんて、多分すごい格好悪い事だろうけど、必至になってエリさんに伝えた。
けどダメだ。
全く聞き耳持たない。
それどころか私の事など見覚えが全くないという。
そんなぁ。
ただ1人、かろうじて生き残っていた、
私に防弾チョッキをくれた兵士さんが、
私はただの一般人だと弁解してくれたんだけど、
モーデン兵の言う事など、信じられる訳ないだろうと、エリさんが言った。
正直私はキレた。何でこんな気さくでいい人を疑うんだ。
てめーそこに居直りやがれ!説教くらわしてゃああ!

なんて、まあ、一般人でもキレるくらいはできるけど、
一般人だから戦闘能力は、と言うと。
皆まで言うな、泣けてくる。

言いたい事はそれだけか、とエリさんはとうとう引金を引いてしまった。
ああ、
私の人生これまでか。
走馬灯が思い出のように―――――
違った。逆だ。

バァン

いや、もうバァンでもパァンでも何でもいい。
とにかくそんな感じの音が聞こえた。
後は意識を無くすだけだ、
と、思ったけど。
そうはならなかった。

要するに、
私はかばってもらってなんとか生きてた。
かばってもらったのは、
私に防弾チョッキをくれた兵士さんだった。

兵士さんが、無事で良かったねなんて笑顔で言うもんだから、
私はどばっと涙を出してしまった。
全く、人前でこんな泣いたの久しぶりだ。
やっぱり今日は厄日だな。

続けて、君はどうしても生き延びろと言われた。
私のような一般人を殺してしまったと分かったら、エリさんにも悲しみを感じてしまうからだと。
こっこんな状況でさえもなお!
敵であるエリさんを気遣うとは!
この人の器の大きさを感じ、
また更にどばっと涙を出してしまった。

最後まで守れなくてゴメン、と、
また会おうと言いたいけれどゴメン、と
俺の事は気にせず、とにかく生きるんだ、と
最後にバイバイと言って、兵士さんは息を引き取った。
頼む、
もうこれ以上涙を流させるのは止めてくれ。

話は終わったかと、エリさんはすぐさま私の眉間に銃を突き立てた。
おいおい、
こんな状況でどうやって生き延びろと?
いくらなんでも難しいだろがよおい。

とにかく銃口から逃げようとするのだが、
当然、銃口は私の眉間を追ってくる。
その時、私は見た。
その時のエリさんのまるで冷酷な顔。
何?
戦争じゃあ、みんな人を殺す時、こんな顔をしてる訳?
私を轢いたトラックの運転手は寝てやがったが、
まだ人間味溢れる表情だったぞ、

嫌だ。

こんな奴に殺されるなんて、まっぴらゴメンだ。
殺されて、たまるかボケーーーー!

と思った時だった。
またもや光に包まれる自分。
またかよ!
まあでも、今回は助かった方か?


今の所は安全だ。
いや、戦場は戦場らしいが、
まあ、”跡地”というやつかな。

街のど真ん中に私は突っ立ってる。
街はボロボロ、破壊の限りをし尽くされてる。
でも死体の数から考えるに、
避難とかは成功しているみたいだ。

今までてんやわんやで考える間が無かったけど、
さてこれからどうしよう。
いっそのことここに住み込んじまうか?
いやいや嘘ですよ冗談ですよ。
上段ですよと言って回し蹴りを行ってみる。
危うく股裂けになりそうだったけどな。

食べ物を発見した。
腹は減ってないなぁ。
でもいいや、食ったれ。
ガキっ
ぐはー銃弾埋まってた!
不味・・・
いや、銃弾がね。

私の肩を叩く人がいた。
ノオオオオオオオオ!
ズザーーー
さっきのような事があったから、肩なんて叩かれたらびっくりするに決まってるじゃないか。

当然、身構える私。

あ、

マルコォー!

逃げ出すべきだったんだろうけど、
私はそれよりも腹立っていた。
やってやった。
マルコさんの胸ぐらを掴んでやった。

マルコさんはとにかくびっくりしたようだった。
しきりに私の安否を気遣ってたようだけど。
なんだそりゃ、
そりゃどこのヘボ芝居だ。さっき私を殺そうとしてたのはどこのどいつだか。
エリはどこだぁ!

マルコさんは、非情ーに不思議そうな顔をしていた。
エリって誰?と、隣にいるグラサンかけた男の人(ターマと言うらしい)に話しかけていた。
バッくれんじゃねーよ、エリを出せぇ!

何度言っても、
そいつなんて知らないと、マルコさんは言う。
どうやらここまで言ってもそうだって事は、
本当ーの本気のマジで知らないらしい。
どういうこと?
さっきまで普通に話をしていた相手だろう。

いやそれよりも、

じゃあこの、胸ぐら掴んだ手はどうしたらいいんだ?
マルコさんには直接手を下されてないからマルコさんを殴るにはなぁ。
は、恥ずかしいなぁ。
ま、
まあいいわ!
だったらあんたを殴る!

おいやめないか、とターマさんに止められそうだったが、
それをマルコさんが抑えた。

殴るなら殴ればいいとマルコさんは言った。
しかし、折角なのだが、
私は別段、マルコさんにはこれといって殴りたい動機は無い。
そのマルコさんの発言は、結構いい感じで止められそうだったので、
とりあえずそこで私は一旦引いた。

それ相応の覚悟を背負って生きていると言った。
人を殺す生業だから、人から憎まれるのは山程だと。
その罪を償いきれるかはわからないが、
その罪を背負って行く覚悟はできている、と。

そこまで言われちゃあ、こっちとしては何も言えない。
少なくとも、
一般人の私よりかは、
この人達は命の重さを熟知、というより深く考えているのは分かる。

しかし、そこまで言われても、
あの、エリさんの、
人を殺す瞬間の冷酷な表情は納得いかない。
そこらへんはどうなんだ。

と、エリさんの事を知らないって言ってる人に問うても仕方がないか。
そいつはそいつなりの考え、生き方があったんじゃないかと
マルコさん達は言ったけど。
エリさんの生き方って言われても、
そもそも私もエリさんの事を詳しく知ってる訳ではない。

おいどうしよう。
私もエリさんの事をどうこう言える立場じゃないことに気付いてしまった。

人の生き方、
戦場の殺し合い、
覚悟の上の行動、
えーと、

訳が分からなくなってしまった。

ただ、あれだ。
これまでの体験で生き方というか、
こうしようと思った事はある。

「だったら、私は生きてやるわ」

そりゃあいい事だなと、マルコさん達は言った。

生きる事は、時に死ぬ事より辛いんだぜとターマさんが言った。
何だぁ!
そりゃ私の発言をからかっての事かぁ?

いや、違うけど、半分本気。
そのターマさんの発言で、始まった。
大乱闘。

殴ったら幾分すっきりした。
これから行くあても無いけど、
なんかこう、絶望感は無くて、
いい感じだ。

マルコさん達は、まだ任務があるらしい。
私と大乱闘したターマさんなんかは、
顔がボコボコで正直、この先不安に思ってしまう。
まあ、私のそれほどではないのだが。

また、と言いたい所だけど、
正直私は人を殺すような彼らとまた会いたいとは思わない。
その事を考慮したのか、
マルコさんは、軍人としての俺らとは永遠にさらばだという意を込めて、
バイバイ、
と言って行ってしまった。

ゆっくりと、
光に包まれて行くのが分かる。
またか。
次はどこに行くんだか。
と言うか、
一体これいつまで続くんだよ。


ナンシー、ナンシー!
気付いた?気付いた!
ナンシーの目が開いたわ!

あ、ここは、
今までで唯一どこにいるのか分かる所だな。
病院だ。

で、
側にいる人も、幸いにも知ってる人だ。
まあ、私の母、ヘンリエッタだから、
知ってるとか、それ以前の問題か。

どうやら、私がこの病院にいるのは、
やはりトラックにはねられたかららしい。

びっくりしたのが、私は一瞬、死んだらしい。
と言うより、生きてる方が奇跡らしい。

奇跡だなんてとんでもない。
私は生きると決めたからね。
あんな事故程度で死んでたまるかってもんよ。

みんなには言ってないけど、
と言うか言った所で分かってくれないだけなんだけど、
滅茶苦茶びっくりした事がある。
同時にちょっと嬉しいというか、残念の反対のような気持ち。
腕にはあのSP(スペシャル)カニにやられた傷、
私が寝てる布団の下にあの兵士さんからもらった防弾チョッキ。
そして、銃弾が埋まってる食べ物。何故か腐らずに見舞い品の中に埋もれてた。
もしかして今、私の顔ボコボコ?一応女としてそれは勘弁してほしい。が、
あ、どうやら大丈夫みたいだった。良かった良かった。

こりゃあ、
忘れるにも忘れられないな。

みんな、
バイバイ

バイバイ
<おわり>


<あとがき>タスラグより

今までの作品で、オリジナルキャラを出さなかった記憶があるので、
ちょっとやってみようかと思ったのですが、
いろいろやっていく内に結局この人選になりました。
もっとも、キャラクターの内なるものは完全にオリジナルではありますけど。

もちろんオリジナル的キャラを出してもなお、メタスラらしさを壊さないように、 いやむしろメタスラらしさをより際立たせてくれる事を 意識したつもりです。ですが読み返してみると、何か違いますね。

ナンシーって、普通女性の名とされますよね。これが間違ってると元も子もない。

メタスラ3、2、1の順にこの娘は世界を渡っています。 登場人物の記憶が無いのも、その理由です。
説明しないと絶対分からないような意味不明な作品になってるんで、 この場を持って説明させていただきます。

2003年9月18日




戻る